2012年8月10日金曜日

【 滞在記18 】 【 2011. 6. 5 ~  6.26 】 



       ● 雨季のロッブリー



       
        雨季であっても今年はまだそれほど雨が降っていな
        いという。
          どの国ももはや例年通りの気候ではなく、あくまで
        も参考にできる程度なのかもしれません。
        日中は陽射しも強く汗だくになるが、朝は高原の夏
        のようにカラっと過ごしやすい日さえある。
        
        雨に濡れたジャスミンの花は、ひときわいい香りを
        放ちます。



        
        開ききった花を積むと、次に咲くつぼみがより元気
        になるというので、朝気がついた時には両手いっぱ
        いに摘んで病棟の枕元にもっていく。

        頑なに歩こうとしなかった人も【 どこに咲いてる
        の? 】と、興味を示す人もいる。少し歩いたとこ
        ろに咲いているから散歩に連れ出すのにもちょうど
        いい。



       水に浮かべるとますます香りが漂うので、夜ベッド
       の横に置くと一晩中ジャスミンの香りの中で眠るこ
       とができる。自然のやさしい香りにゆるみます☆







      ● 大好物

        重症病棟を訪れた人々は、患者にさまざまな寄付
        の品を渡して【 がんばってくださいね!】と声
        をかけていかれる。
          
        主に飲み物やお菓子、ピザ、ハンバーガー、ケー
        キなどの食物、パウダーや石鹸など生活雑貨、小
        銭入れやバッグ、仏教の本、現金などなど。

        タイは言わずと知れた果物の宝庫ですが、1年を
        通して多種多様な南国特有のフルーツが旬を迎え
        ます。 

               
       《ドリアン》
        強烈な匂いを放つ果物の王様ドリアンは、栄養豊
        富だが、(特にビタミンB1を多く含む)アルコ
        ールと一緒に食すると命を落とすこともあると言
        われるが、医学的な証明はされていない。    
                      (Wikipediaより)

            
        ドリアン好きな人は多い。
        しかし、体力と共に内臓も弱った状態で思う存分
        食べれば体調をくずすのは必至である。
        大量の下血で病院に運ばれ、3週間入院すること
        になり、点滴を8本に輸血を5本したそうだ。

        この魅惑的な味の虜になってしまうと、ドリアン
        の季節が待ち遠しくてたまらないという。

         
        そんなところに、ドリアンの差し入れ!やったー!
        みんなうきうきしているところへ、【 みんな自分
        の状態わかってるよね?自分で加減しないと後で具
        合悪くなっても面倒みないからね! 】との看護
        のひとことが。さすが、わかってる。


        実際HIV自体のせいで死に至るのはそう多くはな
        いのかもしれないのです。

        普段の生活習慣のバランスの悪さから、不調はあら
        われてくる。
        極度の運動不足や発酵食品、ある種類の果物をとり
        すぎることでも、もともと免疫力が低下している状
        態にはテキメンにダメージとなる。
   

        抵抗力が弱り内臓の消化、栄養吸収機能が著しく変
        化していても、思考が以前のままだと生活習慣を変
        えるのはとても難しい。
        様々な制限のある患者にとって更に嗜好品を制限す
        るのは至難の業。

        誰に何を注意されても【 俺の体なんだからほっと
        いてくれ! 】 という人もいる。

        エイズ=死ではなくなった今、感染後の命をどう生
        きるかは【 自己管理 】が大きな鍵を握っている。
        
        もちろんそれは他の慢性疾患の場合も同様であるの
        だが。



        本当はみんな知ってるんです。
        具合が悪い時にはコレ食べたらだめだって、子供の
        頃から言われてきてるのだから。


        ● 咳がでるときは、冷たいものはNG!
          湯はOK!

        ● ココナツミルクはもともと鮮度がよく
          なければならないが、アレルギーがで
          ることがある
          
        ● エビ、貝、たこ、いかでアレルギーが       
          でることがある

        ● パパイヤやドラゴンフルーツは軟便に
          なるため、人によっては下痢になる

        ● 牛乳でおなかがくだる人もいる
            
        ● パイナップルやパッションフルーツなど、
          酸の強い果物は胃を荒らすので朝一は飲
          まないし、胃弱の人は要注意

        ● ドリアンやジャックフルーツは胃の中で
          発酵する

        ● 貝や海老を塩漬にして醗酵させたパラー
          を使った青パイヤの和え物や、ピクルス
          風の果物、塩漬けの醗酵した魚は食べる
          と発疹がでて猛烈に痒みがでる
          
        また痒くなってきた、おなかもくだってる…
        でも食べたい!






      ● ラムヤイおばさん


        ふとしたことから視力に矯正の必要がある人が大勢い
        ることがわかってから、数ヶ月間に40個近くの近視
        用、遠視用メガネを調達しました。

        それを見ていたオランダのHUUBさんが、【 気に
        なっている人がいるんだけど、その人にもメガネのこ
        と聞いてもらえないかな? 】という。
        それではと、独身女性の住むコテージを訪ねてみた。

        メガネのことを話しても、ラムヤイおばさん最初はそ
        う乗り気ではなかったが【 そんなに言うんなら連れ
        てってもらってもいいかな 】と外出許可をもらうこ
        とにする。

        おばさんは以前2個メガネを持っていたが、ついメガ
        ネをかけているのを忘れて横になり、メガネのツルを
        を折ってしまうのだという。

        メガネがなくても見えるが、うっすらとしか見えない
        状態はまるで霧の中にいるかんじだそうだ。
                      


        当日は運転手つきの車を依頼した。ロッブリーはタク
        シーがないため、行き先を告げて料金交渉をするシス
        テム。
        大型ショッピングセンターの上にあるメガネの専門店
        は、車で20分ほどのところにある。


        エイズ脳症になってから視力が落ち、現在も度が進
        でいるようだと説明すると、早速検眼にはいる。
        片方はほぼ見えないに近いというが、それでもメガネ
        があったほうがいいという。

        メガネのフレームは、多少の扱いが荒くても壊れない
        ものにしたほうがいいというHUUBさんの意見で、
        スポーツ用の軽量でズレないタイプを選んだ。
        びよーんと広げてもしなって戻ってくる。
        さすがはRay-Ban 製だけのことはある!UVコート
        と眩しくないように遮光レンズにしてみた。

        結構なお値段になったが、少しでもラムヤイおばさん
        に居心地よく過ごしてほしいというHUUBさんは了
        解したが、だいぶ予算をオーバーしてしまった…。

        お店としては額が大きいので、全額支払がすまないと
        受け渡しができないため、HUUBさんは即刻お金を
        取りに戻ることになった。



        ちょうどお昼どき【 すぐそばにフードコートがある
        し待ち時間に何か食べませんか? 】というと、すか
        さず【 ハンバーガーがいい! 】といった。
        KFCで、フライドチキンをはさんだハンバーガーの
        セットを頼む。

       【 もうねー、こうやってハンバーガー食べるのは8年
         ぶり!昔パタヤのホテルで働いていたんだけど、
         日になるとパタヤにあるショッピングセンターに夫
         とよく行ったの。買物してからハンバーガーを食べ
         るのがいつものコースだったの。
          
         懐かしいわあ!もう主人も亡くなったし、目が見え
         なくなってからは、部屋から出るのも食事を取りに
         りに行くときくらいになってしまったからねえ… 】

         ハンバーガーはラムヤイおばさんの元気な頃の思い
         出の象徴のひとつかもしれない。

         ちょうど食べ終わる頃にHUUBさんが戻ってきた。
         そろそろメガネができている時間。



         お待たせしました!
         早速試しにかけてみる。どうですか?
         メガネをかけるとすかさず横にあった鏡を覗き込む。
          


       ラムヤイおばさん、すぐに鏡を覗き込んで笑った。
       【 あら、わたし老けたわねえ! 】
         
       そして、【 ねえ、これ高いわよね。どうやってお礼
       をいったらいいかわからないわ。それに何も私お返し
       できないし… 】 と言った。
        ほんの少しでも楽になるのなら…それだけでもう十分
        お返ししてくれてますよ!


        HUUBさんは、パバナプ寺に来て11年目。
        毎年2~3ヶ月訪タイしてボランティアをしているが、
        オランダではエイズケア(その他の慢性疾患も含む)
        の財団にも属している。その財団からと、彼の友人か
        らの寄付を預って患者になにか必要なものがあったら
        調達している。

        私も同じような考えで、しかも自分のわずかな資金で
        動いているのを知ると【 もしよかったら自分が預か
        っている寄付から使ってもらうのはどうだろう。
        自分ひとりだと気がつかないものもあるしね! 】と
        いう提案をいただきました。



        現在のHIV/AIDSは薬も発達したため、感染イコール
        死ではないが、AIDS発症後症状に苦しんだ末に抵抗
        力が回復し、持ち直したあともこれからの人生を多く
        の障害をかかえて過ごす人々も少なくない。

        手足の麻痺、言語障害、視力聴力の低下、皮膚のアレ
        ルギー反応…etc
        その人たちは症状にあわせて食べられるものも違えば、
        体型にも差がある。

        それゆえに、お寺ある【 標準 】のものでは個人の
        ニーズにあわず、お寺側としても一人一人の要望に応
        えるのは難しい。


        私の場合は、気がいたときに必要なものを現地からも
        日本からも調達しているが、たまに出費が重なり、購
        入したいけど今の状況だとちょっときついなと思いな
        がらも予算オーバーすることの方が多かったので、な
        んとありがたいお話なんだろう!と嬉しくなった。

        先のことがわからないのは私を含めてどの人も同じだ
        としても、不治の病を抱える人に、次回まで待ってて
        というのは忍びない気持ちになる。

        こうしてHUUBさんと滞在が重なった時期には、自
        己資金プラスαで、今までよりもっと応援できるよう
        になりました♪ 本当にありがとうございます!







      ● タイ人じゃなくても…
        仏教徒じゃなくても…
        HIVじゃなくても…


        もちろんどの国の人も入所できますよ!という訳で
        はないが、たまたま重症の人が運ばれてきたので受
        け入れているという。今までは、主にビルマ人、ラ
        オス人、中国人。フィリピン人も入所していたこと
        があるそうだ

        タイ国IDカードがないと薬が支給されず、高額な
        実費を払わなければならないが、タイ人と分け隔て
        なくケアの対象となる。(それでも例外で薬をもら
        える場合があり、しかも無料支給。*ただし全ての
        場合にあてはまらないようだ


  
      ○ アーホア(中国人)

        今年の1月に入所してきた当初は、全く身動きひと
        つとれず、ひと目みた瞬間に目を背けてしまう程重
        症だった。

        薬への強いアレルギー反応でつま先から頭皮に至る
        まで全身の皮膚が焼け爛れたように剥けて痛々しか
        った。

        乾季は気温はさほどではないが、湿度がぐんと減っ
        て一気に冷え込み、山に沿った場所特有の乾いた空
        気が吹き抜けると乾燥で皮膚が剥がれ続ける。

        ほんの少しでも体を動かしただけで、ひきつれた皮
        膚が裂けて血が滲み、皮がぼろぼろとうろこのよう
        に剥がれる。
        この頃は大瓶のワセリンが二日ともたない程に、全
        身のありとあらゆる部分に厚くワセリンを塗りつづ
        けるしかなかった。

この時期のアーホアのCD4の値はゼロ
この写真の頃は、だいぶ落ち着いてきたほうである



        それがどうだろう!
        誰がみても絶望的な場面でも、彼は決してあきらめ
        なかった。【 血のにじむような努力 】という言
        葉以上に壮絶な日々であった。

        少し歩けるようになると、皮膚が裂けたところに
        セリンを塗りながら、毎日ただ黙々と歩き、冗談を
        言いながら仲間のベッドを励ましにまわる。
  
       【 家族のところに早く帰りたい 】との想いだけが
        力の源となった


        彼は心が強くやさしい。
        信頼していた子になけなしの全財産を持ち逃げされ
        た時ですら手元に残った電話と小銭を見て【 残し
        ておいてくれてよかった、家族に連絡もとれるし、
        今日食べたいと思ってた麺も食べられる! 】とい
        った。
        仲間がぬれぎぬでお寺を追い出されそうになった時
        も、自分がとばっちりを食いながらも必死でかばい
        続けた。

        かなりの口汚い人でさえ彼のことを悪く言う人はい
        ない。早く家族のところに帰れますように!


  


        タイ人全てが仏教徒ではない。個人に宗教選択の自
        由がある。近年では仏教も古くからの宗派でない新
        興宗教もあり、キリスト教やイスラム教、シーク教
        の人もいる。

        お寺にも何人かのイスラム教徒がいるが、誰もモス
        クの方向に向かっての礼拝もしない。3食用意され
        る食事に禁止されている豚肉もでる。
        その他イスラム教徒にとっての禁止事項がいくつも
        あるが、【 病気なんだから、こんな時はきっと神
        様は許してくれると思う 】という。

        お寺も決して仏教を押し付けはしないし、異教徒だ
        からと入所を拒むこともない。

  
      ○ ワーン(イスラム教)
       
        ワーンは、タイ南部に住むアラブ人と結婚してイス
        ラム教徒になった。

        HIV感染が発覚した後も体調の悪化はみられなか
        ったため、自宅から病院に通い薬をのみながら生活
        していたが、バイクで事故にあい脊髄損傷。
        下半身に力が入らず、常に背中と胸部に痛みがある。
        高熱が出ても下半身と上半身の熱の上がり方に差が
        ある。

        今はクウェートに暮らす別れたご主人と息子さんに
        も、寺にいること、HIV感染についても知らせて
        いないという。誰にも迷惑をかけず死のうとお寺に
        くることを決めたそうだ。

        高熱が続いたある日のこと【 考えたけれど、やは
        りどうしても連絡しておきたい 】 と思い直した
        ようで、別れたご主人に電話をかけたいから電話を
        貸してくれという。
        クウェートへの国際電話のかけ方も調べた。
        しかし、何度コールしても通じない。せっかく思い
        直したのだから通じて欲しいのに。


        ワーンはかっとなりやすく患者同士でのけんかも多
        いが、情に厚く涙もろい。【 あの事故さえなけれ
        ばいまだに普通に暮らしていたのに… 】と言う。

        それもそのはず、ワーンのCD4は500を超える。
        まだHIVウィルス自体の活動は抑えられている。




        現在重症病棟33症のうち5床がワーンと同様に事
        故で障害をかかえている。どの人も皮膚にエイズ特
        有の腫瘍の跡は見られず、ぱっと見にはHIV陽性
        だとは全くわからない。食欲も旺盛で排泄も通常。
        しかしHIV陽性で障害があるとなると、家族は面
        倒を見きれずにお寺を頼る。


  
      ○ プラデット(皮膚疾患)

        ある時、ひどい皮膚疾患にかかった男性が早朝寺の
        門前にやってきた。具合が悪くてなってお金もなく
        面倒をみてくれる人もいない。しかも長年暮らす村
        の住民から村八分にされて…それで彼はパバナプ寺
        を目指してやってきた。ここなら、きっと受け入れ
        てもらえるに違いない。

        HIV陽性者ではないが皮膚疾患の治療を受けて休
        養をとり、3ヶ月後には皮膚疾患も癒えて無事帰宅
        した。





        なぜ例外ばかりが存在し、受け入れるのだろう?
        タイ人以外の者には理解しがたいことが多い。
        パバナプ寺は諸外国では、エイズホスピスとして認
        識されている。英語ではそれしか名づけようがない
        からそう呼ばれるのだが…


        実のところ本来の役割をみるとは、エイズホスピス
        ではない。まして病院でもない。【 寺 】なのだ。
       
        タイで寺は何か悩みや困ったことがある人々の避難
        場所。だからこそ駆け込んできた人を拒むことはな
        のだい。

        寺がタイの歴史と文化に根付き、人々の意識にも深
        く浸透しているからこそ、パバナプ寺が現在のよう
        な役割を果たすようになったのだろう。








      ● 誕生日のタンブン


        重症病棟の横の小さな売店では、生活雑貨や食料
        までひと通り手に入れることができます。
          
        この店のお母さんが娘さんの誕生日に、小さな学
        校にタンブンに一緒に行かないかと誘われた。
        以前はお断りしたことがあったので今回は同行さ
        せてもらうことにしました


      * タンブンとは … 【 徳を積むこと 】

        タイ人の暮らしに欠かせないタンブンとは、
        喜んで施し恵むことをいう。タンブンで得た徳
        は、来世で自分に還ってくると信じられている。
        
        仏教では、肉体は滅んでも霊魂は永遠に存在し、
        再び生まれ変わる輪廻転生を深く信じている。
        ○寄付 ○福徳をなす ○善行 ○功徳を積む
        のように行われることがある。

  
小さなお堂があり、寺と小学校が同じ敷地にある。
まずはそこで僧侶にご飯を食べていただき、寄付を
          する。


         近隣の子供たちが30人ほど通う小学校。
         質素だがこじんまりとして整理整頓されている。
         何でもこの学校は資金が乏しく、近々廃校にな
         るのだそうだ。



         タンブンの際はこの学校と決めているこの家族は、
         勝手もわかっており、手際よく用意がすすんだ。
         ふるまわれたのは、こちら!
         ・あんかけ麺・のみもの・ココナッツアイス
         ・ケーキ・おみやげ用スナックとぬいぐるみ 
         

        火をつけたところで、ハッピーバースデーの歌を
        みんなで唄い祝ってもらう♬

        この日は、寺の僧侶、学校の生徒、先生、家族の
        親戚や知人、仕事場の仲間、友人に食事を振舞う。
        自分の幸せを多くの人と分かち合い、自分にとっ
        て大切な日を大切な人たちと共に祝うのだ。



         お祝いのおすそ分けをいただいた生徒代表から
         のお礼のスピーチと、誕生日を祝う言葉が贈ら
         れた。
        日頃からタンブンを行う機会の多いタイ人は、
        幼少の頃から、施す立場、施される立場になる
        ことも多い。

        受け取り上手は、きっと差し上げることも上手
        になるだろう。

        こうした習慣を大切にしている心が素敵だなと
        しみじみ思う日だった。