● うまれかわり
入所する際には、・タバコ・酒・麻薬の類には手をださ
ないことを約束する。これは、自らも治療に専念します
という意志のあらわれとしての宣誓である。
※ 寺で働くHIV陰性の人々も、寺内では禁煙、禁酒が原
則。もし目の前でタバコやお酒があったら患者も刺激さ
れるからだというが、基本的には個人の考え方に任せら
れているようだ。
【 自分がまさかこんな禁欲的な生活をするとは夢にも
思わなかった、以前はしたい放題で毎日がパーティ
だった 】
長距離トラックの運転手をしていたトゥイは、特殊車
両の免許もあり、そこそこの給料をもらっていた。
【 あちこち行った先で、女の子と遊ぶのも当たり前だ
ったし、今とはまるで正反対の生活だもんな。
でも悪くないよ。自分にもこんな一面があったんだな
ってちょっと嬉しくもあるし驚きでもある。まあ、こ
うでもならなきゃ坊さんみたいな生活は、なかなか自
分で選べるものじゃないけど! 】
一年ほど前から始まったアートセラピー風の試みをき
っかけに、絵をかくことを趣味にできている人たちも
いるが、そのうちのひとりポンが先生となり、トゥイ
も絵をはじめた。
生まれて初めて絵に挑戦!
第1作目完成!
タイで有名な【 高僧 】
なぜか外の水槽タンクにはってある…
ではここで、トゥイに絵を教えてたポンのことを少し…
ポンは当初絵を描くことには全く興味を示さないでい
たのだが、それがあるとき突然に本格的な絵を描き始
めたものだから周りは驚いたが、本人は【 ふぇふぇ
ふぇ 】と笑う。もともと絵を描くことは好きだった
ようです。
彼の場合、ほとんど写真をもとに写実するスタイルで、
写真をコピーして、線をいくつもひく。部分ごとに画
用紙にひきのばすように描いていく。
もともとこういう描き方があるのかもしれないが、彼
は自分で考えだしたのだそうだ。
はじめは鉛筆やボールペンで描いていたが、水彩画は
どう?と、聞くと、いいねえという。ポンは水彩絵の
具を原色のまま使うことはあまりなく、どの色にも白
をまぜる。
【 トゥイの愛娘 】 ポンの第一作!
水彩画第一弾
タイをよくご存知の方ならもうお分かりですね…
【 タイ王国9代目国王 プミポン陛下 】
庭仕事にはげむトゥイ
をあびるようにのみつづけ、なぜか顔中傷だらけだっ
た。もうこの世の終わりのように思っていたのだそう。
そして重症病棟で1ヶ月半を過ぎた頃、裏の二人部屋
に移って仕事も始めた。所内の清掃からスタートした
が、念願だったトラックの運転手としてかりだされる
ことも多くなった。
ようやく新しい生活にも慣れてほっとした頃、寺で出
会い、励ましあい支えあってきた彼女が急死した。
彼女は病状も落ち着いていたはずなのに、何てことな
いところでバランスを崩し、転倒して頭を強打してし
まった。打ち所が悪く、2週間後に息を引き取られた
のだ。
【 トゥイは太ってる子嫌いなのに、私どんどん丸くなっ
ていくのよ、やんなっちゃう 】といっては、大好物
のソムタム、やき鳥、もち米を美味しそうに食べる笑
顔のかわいい子だった。
いつか彼女の親戚に出会ったら渡してあげようと預か
っているんだといって、財布にしまってあった彼女の
IDカードを見せてくれた。【 女はもういいかな。
一番大事なひとは娘だけでいいや 】 今の楽しみは
学期休みに大好きな父に会いにくる娘の訪問だけだと
いう。
【 いやー、やっぱり彼女できちゃった! 】と、照れる
彼を見たいと思ってしまうのは私の勝手な願望☆
愛娘のピムにかかったら、もうデレデレ♥
方法が思いつかなかった。それまでとは違う長い出張
に娘は、=パパもママもうんと愛してるの。パパはも
う私のこと愛していないの?いい子にしていなかった
から?いい子にしたていたら前みたいに一緒にいてく
れる?= なんて電話かかってくると返す言葉がなく
て、もう忙しいから切るよっていうしかないもんなあ
誰が電話切りたいもんか! 】ああ、涙目。
トゥイの宝物パンちゃん☆
この日はひさびさに大好きなパパに会うために一番の
おしゃれをしてきたんだって!夢はパパのお嫁さん♪
ポンが描いた絵の頃より、お姉ちゃんになったなあ。
61歳のウィライは自分のことを23歳だと思っている。
だから周りの人のことを【にーさん!】【ねーさん!】
と呼ぶ。交通事故にあったというが右側の頭蓋骨がない。
事故の経緯や症状のこと、以前はどういう生活をしてい
たのか本人も覚えておらず、入所以来彼女を訪ねる人は
誰もいないため誰も知る者がいない。
常に熱っぽく頭はやわらかい風船が煮立ったように熱い。
そのせいか痴呆症とは違う健忘症がある。ある時点で記
憶がアップデートされていないとでもいおうか。たまに
思い出したように、昔の恋人が塀の中にいるとぼやく。
若いときキャラメルが大好きで大好きで食べ過ぎて歯が
なくなっちゃったそうだ。左上奥に2本しっかり残って
いる歯を見ると、昔はさぞかしいい歯だったろう…
細くて体も小さいが、どこにそんなパワーがあるのかと
思うほどに力強く感情豊か。
ときどき急に怒りが爆発して怒鳴りだすと、病棟の外ま
で悲鳴が響きわたり、何も知らない人は何か事件でもお
きたのかと寄ってくるほど。
そのかわり機嫌がいいと【 うひゃひゃひゃ!うわ~い
わ~い、これも己の因果応報…もう死ぬ~! 】といっ
て大はしゃぎ。
イケメン大好きでちょっと好みのにーさんがくると途端
に目がきらきら、頬が赤らみ饒舌に拍車がかかる。そん
なときにはちょうどおむつを替えて欲しくても、もじも
じしてなかなか言い出せない。
ウィライのお気に入りの【 にーさん 】のひとり。
車椅子に乗っても体が痛くなくなったムーは、夕方にな
ると、やわらかいお菓子とジュースをもってきては話を
しにきていたが、右側の頭蓋骨がないことを知らないた
めにふざけて頭に触ってしまい、逆鱗にふれ只今出入り
禁止中。今となっては懐かしいツーショット。
ないウィライだが、自由な人だなあと思う。
思っていること、言うこと、行動が一致しているのだ。
なんてパワフルでチャーミング♪
61歳だなんて信じられない。
老いしらずなんて… 最強!
私が出会った ☆ステキな人☆ のうちのひとり。
もう1ヶ月も前から【もう、この大荷物!王女さまがみ
えるんだから片付けなさい! 】という看護士の声を聞
いていたが、本格的なお迎えのための動きが始まったの
は3日ほど前からでした。
普段手入れのされていない部分がみるみるうちに改造さ
れ、病棟も看護婦らが総出で窓みがき、ペンキぬり、網
戸をはずして洗ったりと大忙し!
11年いる看護婦長も【もうこんなことはじめて!】と
汗だく。
マネージャーのオーダーでオフィス手作りの王女さま歓
迎の看板はブータン王国の国旗や王女さまの写真、国の
歴史、歴代の国王の写真など盛りだくさんなかなりの力
作ができあがった。
* 龍は、ドゥルック(Druk、雷龍の意)と呼ばれるも
のであり、それは、ブータンがチベット語の方言で
「龍の地」として知られていることを暗示している。
龍の爪についているのは宝石で、富を象徴している。
背景は二つの色に分けられており、それぞれが世俗
の君主政治(黄色)と仏教(オレンジ)を象徴して
いる。
* 現在のブータン王国 第5代目国王
ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク陛下は
第3代目国王の末娘 ケサン・ワンモ・ワンチュク王女
にとっては、甥にあたられる。
王女さまが到着されるまで、大掃除フル稼働。
患者のベッドまわりも見たことがないほど整頓された。
こんなことなら、どうかひと月に一度はきていただかな
いと!と、みんな本気で冗談言うほどだった。
今回の王女様ご訪問の目的は、視察にみえるのだとばか
り思っていたが、そうではなかったんです。
実はこっそりご自分のことも隠してただのボランティア
として、訪れようと思っていらしたそうだ。
実際インドのマザーテレサの死を待つ人の家でも一般人
として一週間ほどボランティアに行かれたとのこと。
ところが大使館がこっそりお寺に連絡してしまったのだ
からびっくり!入り口の門にはスタッフがずらっと並び、
お出迎え。ホテルの元従業員指導のもと、おじぎも練習
したそうだ。地元の警察が施設内を警備にあたる。
病棟の入り口に設置されたブータン紹介の衝立や看板、
国旗はすべて取り外すように、そして、公の訪問でない
ため、滞在中はネットにも写真はのせないようにとも。
今まで見たことがないほど、人々の熱狂ぶりは超ド級だ
った。蜂の巣をつついたように誰もが何も手につかず、
そわそわしている。
同じ王国同士、日頃からロイヤルファミリーに対する憧
れが強いこともあってブータン王国に対しては格別の想
いがあるのだそうだ。
【 一生に一度あるかないかの幸運 】に何としてもお近づ
きになろうと、言葉をかわす機会をさまざまな場所で待
ち構える人続出。
バンコク勤務の警察官も追っかけてきていて、こっそり
寺の中に忍び込んできていたり、夜間に宿泊先までおし
かけてくる人がでるほどであった。
地元の有力者やロッブリー病院看護婦長の来訪
これからブータンにもエイズ患者を治療する場所をつく
ろうとお考えになっているとのこと。
えっ、ブータンにもHIVが?
国際化近代化が進めば進むほどにどの国も同じ問題を抱
えている。
以前はカンボジアで障害のある子供のためにユニセフで
での活動や、インドでHIV患者のための活動も行われ
ていて、ブータンでも私的な財団をたちあげて社会福祉
問題に取り組み積極的に活動されていらっしゃる。
HIVの症例や治療法、メンタルをかかえる場合の対処
など、いままでのどの訪問者よりも詳しくご存知だった。
寺でも、現状が知りたいのだといわれる。
ブータンでは、自分の解脱を目指す僧侶が多いという。
今お考えになっているのは、患者への奉仕を通して修
行を希望する僧侶を募り、僧侶が患者のケアをするシ
ステムだそうだ。
ある高齢の患者は、軽度のメンタルを抱えていること
もあり、他者との意思の疎通が難しい。
いつものように、ひとりでしゃべり続ける。
王女さまはタイ語はご存知なく、英語で話される。
【 タイ語はご存じないでしょうけれど… 】といい
ながらも、ただくるくると終わりのないおしゃべりを
続ける老女の横にいらした。
しばらくすると老女の顔が穏やかにゆったりとしてき
て、話すトーンがさがった。あきらかに独り言ではな
くなったのだ。
言葉がわかるかわからないかは重要なのでなく、判断
せずにただ一緒にいる。
そんなことを知っていらっしゃる方だった。
重症病棟でのケアも何から何まで経験してみたいと
言われるが、王女さまにおしもの世話をしてもらう
なんて…
たじたじの人に【替えないの?どうして~?】
といいながら、おむつを自分にあててみせる。
あまりに気さくでキュートなお人柄に、みんな
すっかり大ファンになってしまった♥
何か実用的で記念になるものをとお考え下さって、
患者、スタッフ、関係者にTシャツを用意されて
1人1人に手渡ししてくださった。
フットワーク軽く、患者さんの様子を見てまわられる
マッサージには慣れているはずのアナン、緊張で息を
するのを忘れてしまっていて、大笑い!
たまたま訪れていた ジャーの息子、娘、親戚の方
二人とも驚くほどパパ似!
アーホアの奥さんはバンコクで豆乳と揚げパンを屋台で
売っている。2歳になった愛娘ピンピンちゃんは
【 パパ元気になったのにどうしておうちに帰らないの? 】と、だだをこねる。中国に住むお姉さんとも久々の再会。
たまたま訪問した患者とその家族とも記念撮影にも気軽
に応じられる。この1週間の出来事は、かけがえのない
思い出としてどの人の心にも残ることだろう。
【 王女さまがこのように国民のことを思って動いていらっ
しゃることをブータンの国民はご存知なのですか?】
と伺ってみた。
すると、
【 あまり公にしていないの。だって、動きたいように動け
なくなっちゃうでしょう?国からの予算をもらうことも
考えていないし、莫大な寄付がはいるとビジネスにもな
りかねないでしょうし。
私は父や母から受け継いだ財産で、自分の目の届く規模
で運営することしか考えていないの。だって、誰が誰だ
か顔を見てわかるようじゃないと、様子をみながらのケ
アができないじゃないでしょう!ね、そう思わない? 】
【 いままで関わって更生した人がよく私に恩返しをしたい
というけれど、私にではなく同じ状況で苦しんでいる人
の手助けになれるような人間になりなさいというの。
それが最大の恩返しなの。あなたの体験がいきる場だし、
あなたしかできないことが必ずあるのよっていうの。 】
ブータン王国の国策である GNH(国民総幸福量)は、
何よりも、王族一家の献身的なまでの国民を思うお心に
も大いに関係しているのではないだろうか。
ブータン国民は何と幸せなのだろう!
(厚生労働省発表)
2011.9.27
日本厚生労働省のエイズ動向委員会は27日、HIV感
染に気付かずに発症したエイズ患者が第2四半期(4~
6月)に新たに136人報告され、昭和59年の調査開
始以来3カ月間ごとの集計では過去最多だったと発表。
委員長の岩本愛吉東京大教授は「新規エイズ患者報告数
の増加は、潜在的な感染者数の増加とHIV抗体検査の
遅れを示唆している。早期発見は早期治療や感染拡大防
止に結び付く。積極的に抗体検査をしてほしい」とコメ
ントを発表した。
同じ期間に報告された発症前の新たなHIV感染者は、
217人で、直前の3カ月間と比較して減少した。
感染の有無を調べる自治体の抗体検査は3万1553件
実施され、前年同期と比べて減少した。3月の東日本大
震災の発生が影響している可能性があるという。