2012年8月10日金曜日

【 滞在記20 】 【 2011. 9. 5 ~  9.21 】 



     ● うまれかわり

        入所する際には、・タバコ・酒・麻薬の類には手をださ
        ないことを約束するこれは、自らも治療に専念します
        という意志のあらわれとしての宣誓である。

      ※ 寺で働くHIV陰性の人々も、寺内では禁煙、禁酒が原
        則。もし目の前でタバコやお酒があったら患者も刺激さ
        れるからだというが、基本的には個人の考え方に任せら
        れているようだ。


       【 自分がまさかこんな禁欲的な生活をするとは夢にも
         思わなかった、以前はしたい放題で毎日がパーティ
         だった 】

        長距離トラックの運転手をしていたトゥイは、特殊車
        両の免許もあり、そこそこの給料をもらっていた。

       【 あちこち行った先で、女の子と遊ぶのも当たり前だ
        ったし、今とはまるで正反対の生活だもんな。

        でも悪くないよ。自分にもこんな一面があったんだな
        ってちょっと嬉しくもあるし驚きでもある。まあ、こ
        うでもならなきゃ坊さんみたいな生活は、なかなか自
        分で選べるものじゃないけど! 】

        一年ほど前から始まったアートセラピー風の試みをき
        っかけに、絵をかくことを趣味にできている人たちも
        いるが、そのうちのひとりポンが先生となり、トゥイ
        も絵をはじめた。


               生まれて初めて絵に挑戦!


                       第1作目完成!
               タイで有名な【 高僧 】
            なぜか外の水槽タンクにはってある…


        ではここで、トゥイに絵を教えてたポンのことを少し…

        ポンは当初絵を描くことには全く興味を示さないでい
        たのだが、それがあるとき突然に本格的な絵を描き始
        めたものだから周りは驚いたが、本人は【 ふぇふぇ
        ふぇ 】と笑う。もともと絵を描くことは好きだった
        ようです。

        彼の場合、ほとんど写真をもとに写実するスタイルで、
        写真をコピーして、線をいくつもひく。部分ごとに画
        用紙にひきのばすように描いていく。
        
        もともとこういう描き方があるのかもしれないが、彼
        は自分で考えだしたのだそうだ。
        はじめは鉛筆やボールペンで描いていたが、水彩画は
        どう?と、聞くと、いいねえという。ポンは水彩絵の
        具を原色のまま使うことはあまりなく、どの色にも白
        をまぜる。



           【 トゥイの愛娘 】 ポンの第一作!


                        水彩画第一弾
          タイをよくご存知の方ならもうお分かりですね…

          【 タイ王国9代目国王 プミポン陛下 】


庭仕事にはげむトゥイ
        さて先ほどのトゥイだが、寺に入所する前の4日間酒
        をあびるようにのみつづけ、なぜか顔中傷だらけだっ
        た。もうこの世の終わりのように思っていたのだそう。

        そして重症病棟で1ヶ月半を過ぎた頃、裏の二人部屋
        に移って仕事も始めた。所内の清掃からスタートした
        が、念願だったトラックの運転手としてかりだされる
        ことも多くなった。

        ようやく新しい生活にも慣れてほっとした頃、寺で出
        会い、励ましあい支えあってきた彼女が急死した。

        彼女は病状も落ち着いていたはずなのに、何てことな
        いところでバランスを崩し、転倒して頭を強打してし
        まった。打ち所が悪く、2週間後に息を引き取られた
        のだ。

      【 トゥイは太ってる子嫌いなのに、私どんどん丸くなっ
        ていくのよ、やんなっちゃう 】といっては、大好物
        のソムタム、やき鳥、もち米を美味しそうに食べる笑
        顔のかわいい子だった。


        いつか彼女の親戚に出会ったら渡してあげようと預か
        っているんだといって、財布にしまってあった彼女の
        IDカードを見せてくれた。【 女はもういいかな。
        一番大事なひとは娘だけでいいや 】 今の楽しみは
        学期休みに大好きな父に会いにくる娘の訪問だけだと
        いう。

      【 いやー、やっぱり彼女できちゃった! 】と、照れる
        彼を見たいと思ってしまうのは私の勝手な願望☆



愛娘のピムにかかったら、もうデレデレ♥

      【 お寺に入所してからは、出張なんだって嘘を言うしか
        方法が思いつかなかった。それまでとは違う長い出張
        に娘は、=パパもママもうんと愛してるの。パパはも
        う私のこと愛していないの?いい子にしていなかった
        から?いい子にしたていたら前みたいに一緒にいてく
        れる?= なんて電話かかってくると返す言葉がなく
        て、もう忙しいから切るよっていうしかないもんなあ
        誰が電話切りたいもんか! 】ああ、涙目。

        トゥイの宝物パンちゃん☆
        この日はひさびさに大好きなパパに会うために一番の
        おしゃれをしてきたんだって!夢はパパのお嫁さん♪
        ポンが描いた絵の頃より、お姉ちゃんになったなあ。





      ● 61歳の女の子


        61歳のウィライは自分のことを23歳だと思っている。
        だから周りの人のことを【にーさん!】【ねーさん!】
        と呼ぶ。交通事故にあったというが右側の頭蓋骨がない。

        事故の経緯や症状のこと、以前はどういう生活をしてい
        たのか本人も覚えておらず、入所以来彼女を訪ねる人は
        誰もいないため誰も知る者がいない。

        常に熱っぽく頭はやわらかい風船が煮立ったように熱い。
        そのせいか痴呆症とは違う健忘症がある。ある時点で記
        憶がアップデートされていないとでもいおうか。たまに
        思い出したように、昔の恋人が塀の中にいるとぼやく。

        若いときキャラメルが大好きで大好きで食べ過ぎて歯が
        なくなっちゃったそうだ。左上奥に2本しっかり残って
        いる歯を見ると、昔はさぞかしいい歯だったろう…

 
        細くて体も小さいが、どこにそんなパワーがあるのかと
        思うほどに力強く感情豊か。
        ときどき急に怒りが爆発して怒鳴りだすと、病棟の外ま
        で悲鳴が響きわたり、何も知らない人は何か事件でもお
        きたのかと寄ってくるほど。

        そのかわり機嫌がいいと【 うひゃひゃひゃ!うわ~い
        わ~い、これも己の因果応報…もう死ぬ~! 】といっ
        て大はしゃぎ。

        イケメン大好きでちょっと好みのにーさんがくると途端
        に目がきらきら、頬が赤らみ饒舌に拍車がかかる。そん
        なときにはちょうどおむつを替えて欲しくても、もじも
        じしてなかなか言い出せない。


      
       ウィライのお気に入りの【 にーさん 】のひとり。
       車椅子に乗っても体が痛くなくなったムーは、夕方にな
       ると、やわらかいお菓子とジュースをもってきては話を
       しにきていたが、右側の頭蓋骨がないことを知らないた
       めにふざけて頭に触ってしまい、逆鱗にふれ只今出入り
       禁止中。今となっては懐かしいツーショット。
        左半身麻痺があり、自力では起き上がることはもうでき
        ないウィライだが、自由な人だなあと思う。
        思っていること、言うこと、行動が一致しているのだ。

        なんてパワフルでチャーミング♪
        61歳だなんて信じられない。
        老いしらずなんて… 最強!
        私が出会った ☆ステキな人☆ のうちのひとり。






      ● ブータン王国 王女さま訪問


        もう1ヶ月も前から【もう、この大荷物!王女さまがみ
        えるんだから片付けなさい! 】という看護士の声を聞
        いていたが、本格的なお迎えのための動きが始まったの
        は3日ほど前からでした。


        普段手入れのされていない部分がみるみるうちに改造さ
        れ、病棟も看護婦らが総出で窓みがき、ペンキぬり、網
        戸をはずして洗ったりと大忙し!
        11年いる看護婦長も【もうこんなことはじめて!】と
        汗だく。

        マネージャーのオーダーでオフィス手作りの王女さま歓
        迎の看板はブータン王国の国旗や王女さまの写真、国の
        歴史、歴代の国王の写真など盛りだくさんなかなりの力
        作ができあがった。




       * 龍は、ドゥルック(Druk、雷龍の意)と呼ばれるも
         のであり、それは、ブータンがチベット語の方言で
         「龍の地」として知られていることを暗示している。
         龍の爪についているのは宝石で、富を象徴している。
         背景は二つの色に分けられており、それぞれが世俗
         の君主政治(黄色)と仏教(オレンジ)を象徴して
         いる。



       
           * 現在のブータン王国 第5代目国王
          ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク陛下は
        第3代目国王の末娘 ケサン・ワンモ・ワンチュク王女
               にとっては、甥にあたられる。
       
          


       王女さまが到着されるまで、大掃除フル稼働。
       患者のベッドまわりも見たことがないほど整頓された。
       こんなことなら、どうかひと月に一度はきていただかな
       いと!と、みんな本気で冗談言うほどだった。

       今回の王女様ご訪問の目的は、視察にみえるのだとばか
       り思っていたが、そうではなかったんです。


       実はこっそりご自分のことも隠してただのボランティア
       として、訪れようと思っていらしたそうだ。
       実際インドのマザーテレサの死を待つ人の家でも一般人
       として一週間ほどボランティアに行かれたとのこと。

       ところが大使館がこっそりお寺に連絡してしまったのだ
       からびっくり!入り口の門にはスタッフがずらっと並び、
       お出迎え。ホテルの元従業員指導のもと、おじぎも練習
       したそうだ。地元の警察が施設内を警備にあたる。


       病棟の入り口に設置されたブータン紹介の衝立や看板、
       国旗はすべて取り外すように、そして、公の訪問でない
       ため、滞在中はネットにも写真はのせないようにとも。


       今まで見たことがないほど、人々の熱狂ぶりは超ド級だ
       った。蜂の巣をつついたように誰もが何も手につかず、
       そわそわしている。

       同じ王国同士、日頃からロイヤルファミリーに対する憧
       れが強いこともあってブータン王国に対しては格別の想
       いがあるのだそうだ。


     【 一生に一度あるかないかの幸運 】に何としてもお近づ
       きになろうと、言葉をかわす機会をさまざまな場所で待
       ち構える人続出。

       バンコク勤務の警察官も追っかけてきていて、こっそり
       寺の中に忍び込んできていたり、夜間に宿泊先までおし
       かけてくる人がでるほどであった。


 


 
地元の有力者やロッブリー病院看護婦長の来訪


        これからブータンにもエイズ患者を治療する場所をつく
        ろうとお考えになっているとのこと。
          
        えっ、ブータンにもHIVが?
        国際化近代化が進めば進むほどにどの国も同じ問題を抱
        えている。

        以前はカンボジアで障害のある子供のためにユニセフで
        での活動や、インドでHIV患者のための活動も行われ
        ていて、ブータンでも私的な財団をたちあげて社会福祉
        問題に取り組み積極的に活動されていらっしゃる。

        HIVの症例や治療法、メンタルをかかえる場合の対処
        など、いままでのどの訪問者よりも詳しくご存知だった。
        寺でも、現状が知りたいのだといわれる。

        ブータンでは、自分の解脱を目指す僧侶が多いという。
        今お考えになっているのは、患者への奉仕を通して修
        行を希望する僧侶を募り、僧侶が患者のケアをするシ
        ステムだそうだ。

            リハビリに励む患者さんを激励☆

         
       ある高齢の患者は、軽度のメンタルを抱えていること
       もあり、他者との意思の疎通が難しい。

       いつものように、ひとりでしゃべり続ける。

       王女さまはタイ語はご存知なく、英語で話される。

       【 タイ語はご存じないでしょうけれど… 】といい
       ながらも、ただくるくると終わりのないおしゃべりを
       続ける老女の横にいらした。

       しばらくすると老女の顔が穏やかにゆったりとしてき
       て、話すトーンがさがった。あきらかに独り言ではな
       くなったのだ。

       言葉がわかるかわからないかは重要なのでなく、判断
       せずにただ一緒にいる。
       そんなことを知っていらっしゃる方だった。

     
         重症病棟でのケアも何から何まで経験してみたいと
         言われるが、王女さまにおしもの世話をしてもらう
         なんて…
         たじたじの人に【替えないの?どうして~?】
         といいながら、おむつを自分にあててみせる。

         あまりに気さくでキュートなお人柄に、みんな
         すっかり大ファンになってしまった♥

        何か実用的で記念になるものをとお考え下さって、
        患者、スタッフ、関係者にTシャツを用意されて
        1人1人に手渡ししてくださった。


        フットワーク軽く、患者さんの様子を見てまわられる
         

        マッサージには慣れているはずのアナン、緊張で息を
        するのを忘れてしまっていて、大笑い!


        たまたま訪れていた ジャーの息子、娘、親戚の方
        二人とも驚くほどパパ似!


アーホアの奥さんはバンコクで豆乳と揚げパンを屋台で
        売っている。2歳になった愛娘ピンピンちゃんは
     【 パパ元気になったのにどうしておうちに帰らないの? 】
        と、だだをこねる。中国に住むお姉さんとも久々の再会。

      たまたま訪問した患者とその家族とも記念撮影にも気軽
      に応じられる。この1週間の出来事は、かけがえのない
      思い出としてどの人の心にも残ることだろう。




      【 王女さまがこのように国民のことを思って動いていらっ
        しゃることをブータンの国民はご存知なのですか?】
        と伺ってみた。

        すると、

      【 あまり公にしていないの。だって、動きたいように動け
        なくなっちゃうでしょう?国からの予算をもらうことも
        考えていないし、莫大な寄付がはいるとビジネスにもな
        りかねないでしょうし。

        私は父や母から受け継いだ財産で、自分の目の届く規模
        で運営することしか考えていないの。だって、誰が誰だ
        か顔を見てわかるようじゃないと、様子をみながらのケ
        アができないじゃないでしょう!ね、そう思わない? 】


      【 いままで関わって更生した人がよく私に恩返しをしたい
        というけれど、私にではなく同じ状況で苦しんでいる人
        の手助けになれるような人間になりなさいというの。
        それが最大の恩返しなの。あなたの体験がいきる場だし、
        あなたしかできないことが必ずあるのよっていうの。 】


        ブータン王国の国策である GNH(国民総幸福量)は、
        何よりも、王族一家の献身的なまでの国民を思うお心に
        も大いに関係しているのではないだろうか。
        ブータン国民は何と幸せなのだろう! 



       ● 新規エイズ患者過去最多 潜在的な感染者数増加か
                       (厚生労働省発表)

       2011.9.27 
       日本厚生労働省のエイズ動向委員会は27日、HIV感
       染に気付かずに発症したエイズ患者が第2四半期(4~
       6月)に新たに136人報告され、昭和59年の調査開
       始以来3カ月間ごとの集計では過去最多だったと発表。

       委員長の岩本愛吉東京大教授は「新規エイズ患者報告数
       の増加は、潜在的な感染者数の増加とHIV抗体検査の
       遅れを示唆している。早期発見は早期治療や感染拡大防
       止に結び付く。積極的に抗体検査をしてほしい」とコメ
       ントを発表した。

       同じ期間に報告された発症前の新たなHIV感染者は、
       217人で、直前の3カ月間と比較して減少した。
       感染の有無を調べる自治体の抗体検査は3万1553件
       実施され、前年同期と比べて減少した。3月の東日本大
       震災の発生が影響している可能性があるという。