2013年7月15日月曜日

【 滞在記31 】 【2013.04.11 ~ 04.16 】

 


 

      ● お正月

        特に昨年の寺の20周年からは、イベントがゴージャス
        になってきていて、今年のお正月は有名な歌手のコンサ
        ートやコメディアンの漫談と、もりだくさんのプログラ
        ムに、外部からの訪問客も大勢やってきて大盛況

        ライブ会場の舞台の前では、タイの伝統舞踊のひとつで
        あるラムタイという踊りをベースに思い思いに踊る人で
        ごったがえしている。その踊りは、両手を上にあげて左
        右にふり、足を交互にあげる動きは沖縄のカチャーシー
        に似ている。

        もちろん、水かけも無礼講で、安全だと思っていた病棟
        にも、軽症患者さんが大勢押し寄せて水をかけにくる。
        この場合、ばしゃーっとバケツで水をまくのでなく、
        【新年おめでとう!ごめんね、かけるね】といいながら、
        ペットボトルで、頭から、背中に、胸元に水をそそがれ、
        香りつきの水にといた白い粉をぬる。そして、かけられ
        たら、同じように【新年おめでとう~!】とお祝い返し。
        暑いからと、わざわざ氷水を用意している人も…思わず
        ぎゃーーっ! 

    
       
       氷水をかけられた直後のワンナーと、笑いをこらえるノイ                     お正月だもの 無礼講 無礼講



                 街でも 無礼講
    車だろうがバイクだろうが 歩いていても 水かけの洗礼がまっている
         (どこにでも象が参加しているわけではありません)
                







      ● つめ

        使われていないところが衰えるのは、どこの部分でも
        同様である。足を使わなくなると、足の筋肉は衰えて
        関節部分はぎしぎし。末端の指や爪は形状がかわり、
        菌が繁殖しやすくなる。

        それはHIVのためではなく、日本で、比較的お世話の
        いきとどいていると思われる、介護付有料老人ホーム
        でヒーリングケアボランティアとして伺っていた際に
        も驚くほど様子が似ていた。

        爪が肥厚し、爪の水虫や疥癬をくりかえし発生する。
        タイと日本では気候も環境も病気も、全く異なる状況
        下でも似たような状態がおこるのは、体質や老化、抵
        抗力によるものなのだろうか。




      厚くなった爪が内側に巻き込み、ほおっておくと指にくいこむ


                  
            厚いところは、爪切りもはいらない
        治療薬もあるそうだが、効き目は個人差があるという。        



        やすりの圧で爪がはがれないように気をつけてけずる。
         (爪みずむしの方の場合は、要てぶくろ着用)

            
        






      ● 感染防ぐ遺伝子変異

        白人の100人に1人が、エイズ感染を防ぐ遺伝子変異
        を持っていることが研究で明らかになっている。
        この変異を持っているのは、白人だけで、黒人や日本人
        からは見つかっていないのだという。

        遺伝子に変異がある人は、ウイルスの攻撃からリンパ球
        を守るタンパク質が大量につくられるため、リンパ球の
        減り方が半分程度になり、人によって病気の進行が2倍
        ほど遅くなるという。一般的にウイルスに感染してから
        発症するまでの期間は、早くて2~3年、平均10年程
        度といわれているが、1年以内の発症、25年以上たっ
        て発症するケースもある。

        そして更に、遺伝子操作によってこうした抵抗力をつけ
        る研究が進み、マウスでのテストはうまく作用するとい
        うが、この手法がヒトでも機能するのか。 


                                             (photo credit:Sangamo Biosciences)
            CCR5遺伝子をT細胞から切り取る様子

        AIDS専門医が、感染者から対象の細胞をいくつか取り
        出し、遺伝子に手を加えて再び患者の体内に戻すという
        方法が考えられる。
        
        体内に戻された抵抗力のある細胞は、ウイルスをものと
        もせず、盛んに増殖し、勢力をのばす。
        この方法では体内に入ってしまっているウイルスを取り
        除くことはできないが、二次感染に対する抵抗力や健康
        を保つ能力が高まるはずだという。ただ、遺伝子に手を
        加えることによる副作用などを含め、まだ未知数だが、
        これからの研究に期待をかけたい。







    
      ● 粋な差し入れ

        寺にきた訪問客が患者さんと意気投合して、寺に来れ
        ないときでも、差し入れをしていることがある。
        パソコンが得意な人が、ちょっと遊んでつくったよと
        送ってくれたポストカード。

        アメリカの俳優 ブラッド・ピットの写真に顔を切り
        取って、患者さんの顔をはめてできあがり~。

        あきらかにお面のように浮いているように見えるのが
        あるのも、ご愛敬。
        アンジェリーナ・ジョリーが隣にいるからと、ふざけ
        て【むかし、アンジーがタイにお忍びで来てたとき、
        つきあってたんだ。公になってはいないんだけどね。
        いい女だったな~】

        そんな冗談を言って遊んでいたら、目の悪い清掃担当
        のおばさんが、目をまるくして興奮している。【あん
        た、かっこよかったね~。すごいよ、この筋肉!】
        大笑いする私たちに、訳がわからないおばさん。

        ユーモアのある、気持ちのこもった差し入れだった。
     



        

 








2013年7月11日木曜日

【 滞在記30 】 【2013.03.22 ~ 04.01 】

 



     ● 卒園式

       あるとき、トゥイが、【 ねえ、一緒にきてよ。午後1時間
       でいいから 】といった。
       
       その日は、トゥイの愛娘ニンちゃんの幼稚園の卒園式がある
       という。その日はどうしても予定があわず、外にでることは
       できなかったが、写真を撮ってほしいのだということがわか
       ったので、カメラの扱い方を教えてお貸しすることにした。
       3時間ほどして、満面の笑みのトゥイが帰ってきた。
       



                       担任の先生と
               大人顔負けばっちりメイクのニンちゃん



                      ママとニンニン
             
                トゥイの奥さんのリンはHIV陰性だが、
                 夫とともに寺で暮らすことを選んだ。
               食堂で料理と給仕のお手伝いをしている

                       仲良し父娘

       





     ● こんなときにも大活躍の【はさみ】
 
       もともとの体質も関係あるようだが、歯や歯茎にトラブル
       がある方が多い。

       歯磨きの習慣が定着していないことや、病床にあるため、
       自分で洗面所まで行けないこと。それに、歯を磨いたほう
       がいいことは知ってはいても、そこまで重要だと思ってい
       ないという人も意外に多かった。

       …その結果虫歯になり、歯医者にも通いづらいため、悪化
       する一方。
       なかには【なにもしないのに、急にぽろっととれたんだよ】
       と、抜けた歯をみせてくれた人もいた。
       歯ってぽろっととれるの?
      
       食欲があって食べたい。でも、ふつうの歯が数本しかなく
       て噛めない。歯茎が腫れて痛いけど、おかゆにはもう飽き
       たからふつうの食事がいいなあ。

       そんな人のために、大活躍してくれるのが【はさみ】
       フードプロセッサーやすり鉢ですりつぶしたら、飲み物に
       なってしまうけれど、はさみなら、まだ食べ物の風味を味
       わえるのかもしれない。











     ● 副作用
       
       HIV/AIDSの治療は、患者の症状によって、また、体質に
       よって服用できる薬がかわってくる。
       多くの種類の薬を併用することによって、予後の状態を大
       幅に改善することになったという。しかし、それによって
       副作用や、治療薬剤に対して耐性を獲得したウィルスの出
       現につながることになった。

       薬剤があわず、皮膚に症状を抱える人もいる。皮膚の色が
       色素がぬけて白と茶になってしまった人。
       皮膚が乾燥してがさがさになり、ぼろぼろと剥けて、湿疹
       をともなうこともある。
      
       乾燥しているときはてきめんで、痒みに襲われ、痒み止め
       も気休め程度しか効かずに、結局はワセリンを塗り続ける
       ことが精一杯。
      

タイ東北地方出身のレム 全身の皮膚が常に赤むけ状態 
かゆみもあり、あちこちに血がにじむ
このときは、まだ小康状態


                   これがないと大変!
薬局で売っているワセリンだと、一日しかもたないので
                バケツサイズのワセリンが必需品







     ● 目指すところ 

       マイノリティならば社会が手を差し伸べてくれると思ったら
       大間違いだし、ゲイであろうとなんだろうと、自分が理解さ
       れないことを誰かのせいにしたら、そこで終わりだと思う。

       世の中において、
       これが正しい、これが間違っている、到達点だという、絶対
       的なものは存在しない。ゲイは、そのことを普通の人よりも
       理解しうるチャンスが多い人種だと思っている。
              マツコ・デラックス (2012/7/14 週刊東洋経済)
             




       弱者を健常者より丁寧に扱い、特権を設けることだけでは、
       決定的な何かが解決には至らない。
       プライドより、誇りを胸に、誰もが対等である社会を目指
       そう。
 














2013年7月8日月曜日

【 滞在記29 】 【2013.02.18 ~ 03.01 】



 

      ● 失明 

        抵抗力が下がって症状が進むと、視力に影響がでること
        がある。近視や遠視、乱視も進み、人によっては視力を
        失ってしまう。

        重症病棟には現在、全盲の方が3人、見えないが光は感
        じる方が1人、日に日に見えなくなっている方が2人滞
        在している。
        症状が落ち着いて、バンガローや軽症病棟に移って生活
        している方の中でも、視力に障がいを抱える方も多い。

                                                                   (photo from Mr.huub)
        
        盲目になってからでも、手術で視力が回復する可能性
        があるという。視力を失ってからの時間が短ければ短
        いほど、見えるようになる可能性も多いというが、場
        合によっては数回の手術が必要になる場合や、原因が
        わからぬまま視力の回復がみられないという残念な結
        果になることもあるという。

        タイでは、現在手術代を国が保険で負担するケースも
        あり、以前よりはずっと視力回復への機会が多くなっ
        ているが、それでも1回の手術が数週間の入院が必要
        になり、病院との予約のやりとりや搬送、付添い人の
        費用や病院食以外の食費に、日用品にかかる費用など
        の負担を考えると、身近な人の手を借りるか、よほど
        患者の立場にたったサポートシステムがないと難しい
        のが現状だ。

        こうした失明にまで至る症状は、富裕国では早期治療
        の実現によって激減したといわれているが、実際に費
        用の問題がクリアになったとしても、医師にも特別な
        技術を必要とすることや、毎日毎日繰り返される熟練
        の医師による手当と、患者への肉体的な患者の大き
        な負担がかかることもあり、まだハードルが高い治療
        法なようだ。

        ※ サイトメガロウィルス感染症
        カリニ肺炎、カンジタ症とともに3大疾患といわれる。
        肺炎、網膜炎のほかに胃腸炎、脳炎などをおこす。
        トキソプラズマ網膜炎とともに、エイズに伴う失明の
        大きな原因となっている。






      ● 日本がいっぱい

        タイには、日本のものがたくさんある。病棟にも日本
        語があふれている。


これは、ショートパンツのデザイン
        
コナンに、犬夜叉、ワンピース…
海賊版タイ語バージョンのマンガ

それいけ!アンパンマン

  ほら、こんなところにも
女の子の手首のタトゥー 漢字が好きなんだって

手首には、友 左胸には、氷
かーっと熱くなって怒り爆発モードや、突然のことにパニックモードのときなど
【まあまあ、落ち着いて!】という意味で、タイ語では (ジャイ イェン イェン)
直訳で心の温度を下げてという言い方をするが、それをもじって、
ハートに氷を掘ろうと思ったという。おおー、日本人もびっくり!
       





      

      ● だって家族だから 

        お寺にいる犬も猫も自由だから、増えるのがとっても
        早い。繁殖力も強いのだが、みんなで、ごはんの残り
        をあげるので、たっぷりのごはんですくすく育つのだ。

        患者さんはそれぞれ事情があって、わが子と離れて
        いる場合が多く、ぬくもりのあるふわふわのあたたか
        い命に触れていると、さみしさが紛れるという。




       
アレルギーがあって遠ざける人もいるが、
自分の子供のように面倒みる人も多い。

  がんが全身に転移してしまった犬は、
患者さんとスタッフが手厚い看護を尽くし、
最後まで愛情をかけて大切にしていたが、
この次の日に、眠るように息をひきとった。