2012年8月10日金曜日

【 滞在記 8 】 【 2010. 6. 5 ~  6.14 】 



     ● エンターテインメント
         

       ☆ DVD鑑賞
         
       16時には早めの夕飯がおわると、重症病棟中ほど
       にあるテレビの前に椅子を並べ、大きな扇風機も用
       意して準備万端!
       あとは時間が来るのを待つばかり。
        他の病棟からも集まってくる。
        おかしや飲み物、夜食を用意してる人もいて映画館
        にいるみたい。
        17時から、楽しみにしているDVD鑑賞が始まる。

        毎日誰とはなしにセッティングを始めるのだが、楽
        しみで待ちきれない。サナンは1時間前からテレビ
        の前に陣どり場所取りをする。

        タイはDVDのコピーが豊富!
        ラーチェーンの姉妹は、定期的に山のようなDVD
        を差し入れる。看護士たちとも貸し借りすることも
        あるそうだ。


重症病棟なかほどにあるテレビ

          
        ☆ エアロビタイム 17時半~
        エアロビのできる看護士が有志で行うため、不定期開催。
        足をひきずっている人も、腕に震えがある人でも希望者
        誰でも参加できる。それぞれが自分のできる範囲で楽し
        んでいる。


        ☆ 外出(大型スーパー、市場、おまつり)
       看護士同行でみんなまとまってお出かけ。
       おでかけの予定が決まると、ナースステーションのカウ
       ンターにノートが置かれ、希望者は名前を書く。ワゴン
       の座席が決まっているので、早い者勝ちになる。
        市場では日用生活用品、衣類、装飾小物、生鮮食品、加
        工食品、出店とさまざまなものが手にはいる。宝くじを
        買ってあたるひともいるのだ!


        病棟は、遠足前の小学生のようにこの話題で持ちきりに
        なり、出かけられない人はおつかを頼む。

        中には、大好物を買い食いしてアレルギーがでてしまう
        人もいる。以前とは体質が変わっていることに気づかな
        いことも多い。
         
 夕暮れのマーケット

        待ちに待った当日は、シャワーしてお気に入りを着
        て2時間も前からスタンバイ。

        寺の従業員も希望者は同行可能。現地で集合時間が
        告げられ、それぞれ好きにお目当てのものを探しに
        でかける。
        帰りのバスは、何がどこでいくらだったか、おやつ
        をかじりながら戦利品を披露しあって大満足。


        元気になれば、外出もできる。
        けれど、重症病棟にいる間は基本的に外出は病院へ
        行くぐらいのもの。だからこそ、こういう機会が何
        よりも嬉しい。








      ● エイズ撲滅への第一歩



 

      ☆レッドリボン(Red ribbon)
       アメリカ合衆国発祥のHIV陽性者に対して、偏見及び
       差別を持たないHIV陽性者への理解と支援をするため
       の世界的規模の社会運動、もしくはそれを象徴するため
       に掲げられたシンボル。
       UNAIDS(国連合同エイズ計画)シンボルマークに採用。


       HIVウィルス自体を、体内から排除する根本治療では
       ないとしても、現在では薬剤の開発も進み、長期にわた
       って症状の進行をコントロールできる疾患になりつつあ
       る。実際は エイズ=死 ではなくなってきている。



       寺に入所する人々は、初日は家族など身元引受人と共に
       やってくる。
       自宅から来る人も病院から来る人も、ほぼ同様に髪も髭
       もぼうぼうで爪ものび放題、垢がたまり黒くしわが寄り、
       衛生状態は最悪である。まずはシャワーをしたら、服を
       着替えさせる。

       様々な外傷をかかえる方々の入所がここしばらく続いて
       いた。もちろん自宅でのケアはとても手がかかることは
       承知の上である。しかしどうしたらこんな状態になるの
       のだろう。
       いままでどんなところでどんな風に扱われていたのだろ
       う。怒りの前に興味すらわいてくるほどだ。


       寝返りをうつこともできなかったのか、骨まであと僅か
       というところにまで進んでしまった褥瘡。皮膚が壊死し
       て、こぶし大の大きな穴がぼっこりとあき、手当てもさ
       れていないなんて!
       そんな状態の人がたて続けにやってくる。

       患者の傷の手当は、1日1度看護師が行う。
       全身に50箇所以上の、えぐれたような傷があるデー。

       前日手当てをした際のガーゼをはずし、消毒後に薬を
       塗って新しいガーゼでおおう。1時間半かかる作業だ。
       体中にある生傷は頭、顔、耳や肩にも、肛門周辺や陰嚢
       、陰茎にまでにまでいたる。

       何が原因だったか覚えてる?と聞いても、本人は首を
       しげるばかり。性器への炎症や傷は、男女共に多くみら
       れる。

酸素吸入しながらも、気付け薬が手放せない
       

       手当ての際の痛みはハンパじゃなく、痛みをこらえるた
       めに奥歯でタオルを噛ませる。それでも歯がぎりぎりと
       軋み呻き声がもれる。
       意識朦朧となりながらも気付け薬を鼻から吸って、やっ
       とのことで耐える。

      傷の手当中は痛みに耐えられるように手をつなぎ、ほん
      の少ししかない傷のない場所をさすりる。水を飲ませて
      一息つかせたり、何かを言うときには相づちをうつ。
       なぜだかデーは傷を見てほしいようで、ひどく痛む箇所
       を消毒中も「ね、ここ見た?」と呻きながらも目で合図
       するのだ。


       傷もさることながら、長いこと下痢が続き口の中をカン
       ジタ菌にやられて、味を感じなくなってきた。
       そして、つらいのは傷の全部がいますぐ致命傷になりう
       るものではないということ。CD4の値が低いので治り
       が悪い。
       気絶しないほうがおかしいほどの痛みに24時間さらさ
       れ続ける…


        
       デーは毛布をかぶって一人の空間にいることも多いけれ
       ど、気分がいい時は、いろんな話をする。

       今は頭にも傷があり坊主だが、以前はさらさらの長~い
       髪がご自慢だったようで、バイクに乗ることと、お酒を
       飲むのが何よりも好きだったとか。

       大好きな彼女の写真も見せてくれた。
       へー!スタイル抜群の小柄なエキゾチックな美人さん!
       冗談でデーにはもったいないじゃん!というと、僕もそ
       う思うだって、もう大好きなんだね!!


       手当て中、看護士に【 いつ家に帰れる? 】と幾度も
       尋ねるのだが、望む答えは戻ってこない。

      【 そうだよね、正直早く帰りたいけど、家はお金ないか
        らここと同じように傷の手当てをしてもらうこともで
        きないもんな…、消毒液に薬やガーゼ、コットンやら、
        もろもろ換算すると1箇所35バーツくらいお金かか
        ってる計算なんだよね。
        とすると、ほぼ1日2000バーツ弱。うちお金ない
        し、まずは傷が治らないとね! 】

      【 サンダルどこかいっちゃった。歩けるようになった時
        に困るから、おつかい頼まれてくれる? 】

       傷が全身にあって、足の裏と右手の掌しかマッサージで
       きる場所がない。それでも気持ちいいところにあたると
       親指をグーっと出して、そこ気持ちいいよと合図する。


       なんなんだ!!
       チカラのない私でも軽々と抱えられる程にちっちゃくて
       ガリガリなデー。
       でも、なんでこんなに何かでいっぱいなんだ!

       何かにふれて、眠れない。
       抑えていた何かが外れたように涙がとまらない。

       どうか少しでも痛みがやわらぎますように☆
       もう一度好きなものをおいしく食べられますように☆
       また歩けますように☆



       エイズは人工的につくられ、ばらまかれた最終兵器的だ
       という記述をインターネットで見たことがあった。本当
       のことなんかわからないが、たとえガセネタであったと
       しても、信じてしまいそうだ。

       ネコにひっかかれて消毒しようとしている子がいた。
       傷口から流れる血はきれいな赤い色。
       私の血と見た目にはまるで同じ、何もかわらない。
       なのに、どうして!
       HIVが憎い。



       重い症状に苦しみ、忌み嫌われ社会からも切り離され誤
       解や偏見が常につきまとう。自分でも迫害を受ける状況
       に押し潰されそうになる。

       以前は親しくしていた親兄弟、親類や恋人、子供や配偶
       者、友達からも相手にされなくなった人もいるし、誰に
       も言わずにお寺に入所した人さえいる。

       お葬式も誰ひとり姿をみせず、火葬された遺骨からも感
       染するのではないかと怖れて、遺骨が送り返される。



       私も10年以上の間、月一度十数人の従業員への施術を
       依頼されていた会社のオーナーから一方的に解雇された
       経験がある。突然の解雇理由はこうだった。

      【 エイズの人にこれからも関わるなら、もう二度と来て
        くれるな。手袋をしていても、エイズ患者に触れた手
        で触れらると思うと虫唾が走る。間接的には感染しな
        いとわかっていても耐えられない 】


       HIVは通常の環境では、非常に弱いウイルスであるた
       め、一般に普通の社会生活をしている分には感染者と生
       活しても、まず感染することは無い。
       ほんの少し気をつけることが必要なだけ。

       共存できるのだ。

       もちろん、オーナーにも体調の不安や様々な事情はある
       としても、話をする隙もなく一切聞く耳はなかった。
       患者さんに関わっている私ですら、このような扱いを受
       けるのだ。感染者本人たちはどれほどの目にあっている
       のだろう。



       忌み嫌うもの、弱い立場のものを切り離して隅に追いや
       って、目にふれなければそれでいいの?
       そうすれば、まるでなかったことになってしまうの?

       感染の危険性は誰にでもある。
       もしあなたが、あなたの大切な人、恋人や配偶者、親や
       子供が感染していたとしたら?
       そのときに初めて事の深刻さに気づき、助けを求めて叫
       ぶのか?
        
       この病気はなぜこれだけ蔓延することになったのか?
       人ごとではなく、自分のこととして問いかけてみてはも
       らえないだろうか。


       HIVとはどんな病気なのか、どうしたら感染するのか、
       正しい知識を得ることで無意味に怖れ、遠ざける必要が
       なくなる。

       エイズ撲滅への一歩は、まずHIVという病気を理解し
       ようとする気持ちから。