● サナン
サナンは、65歳。寺にきて4年になるが、痴呆症が
どんどん進行してきていた。
ごはんを食べることと、DVDを見ることは日課であり
決して忘れることはない。まわりの人のことも認識で
きる。
けれど、シーツや枕カバー、毛布を替えること、シャ
ワーをすること、髪やヒゲを剃ることを全く受け入れ
なくなってしまった。そこはもともと気にならないら
しく、以前からシャワーを嫌がっていたが、それでも
看護婦長から言われれば仕方なしに受け入れるという
様子だった。
それが、誰が言おうとも全く耳をかさなくなってしま
った。ただでさえ脂性で加齢臭が強いものだから、彼
のいる半径1メートルでは、まるで野生の動物のよう
な臭いがするようになり、服も着たきりでおむつ替え
も一苦労。
みんな、目にしみるぅ~とか、鼻につんとくるよ、と
言うのだが、本人は全く気にせず、着替えさせよう
とすると全力で拒否する。彼は背が高くて骨太だし、
力が強くて誰も太刀打ちできない。
近くの売店におやつを買いに行くのもサナンの日課。
大好物のさとうきびジュースを飲み、歩きながら魚の
揚げボールを口にほおりこんだ。噛まないで飲み込ん
だのか、揚げボールが喉につまってしまった。
息ができないまま重症病棟をさまようところを、数人
で押さえて背中をたたいて喉につまったものを吐かせ
ようとしたが、びくともしない。
他に方法がなく、近くの病院に運ぶことにしたが、車
の中で命つきてしまった。2013年1月2日のこと
である。
マッサージされることが大好きすぎてボランティアの
あとをついてまわっていたサナンがもういないなんて。
しばらくの間は、魚の揚げボールを喉につまらせて、
目を白黒させるギャグが流行っていた。最初こういう
タイ人のギャグセンスに驚いてひいていたが、何でも
笑いにしてしまうって、最強?だなと思うこともあっ
たりして。
● 温水器
日本と比較するとタイでは公の概念が薄いこともあっ
て、大勢で使うものは消耗が激しいというか、扱いが
荒い。
温水器を設置して1年になるが、気温が下がり肌寒く
なる時期に故障してしまっていた。
電源は入るのに、温水がでない。しかもちょろちょろ…
寺の中で使う水は、独自の浄水システムを使うため、
カルシウム分が多くて管の中で石化してしまい、つま
りやすいというどうにも変えようのない故障の原因が
発覚。水が少ししか流ないと、温水がつくられる部分
がスイッチが入らないつくりになっているのだそうだ。
何かいい方法はないですか?と聞くと、兄さんがつぶ
やいた。汲み上げポンプがあると何とかなるんだけど。
え、そうなの?
日本のNPO法人GINA http://www.npo-gina.org/
より患者さんのため使うようにお預かりしている資金
を使わせていただくことにする。
おかげさまで、水シャワーが厳しい寒くなる時期にな
んとか間に合いました~。
大抵のものはちょちょっと修理してしまえる最強のコンビ!
丁寧な仕事と手際のよさには頭がさがります_(._.)_
● インヤイ いまはどこに?
インヤイは、ドラッグのまわしうちでHIVに感染したそうだ。
寺に入所した当初は、がりがりに痩せて寝たきり。おかゆも
喉に通らない状態だった。
人懐っこくて気前のいい彼は、友達も大勢いたが、せっかく
具合がよくなったけれど、またドラッグとタバコが手放せな
くなってしまった。
帰る場所がないので、罰としてセカンドプロジェクトに移動
になったのだが、空気のいいところで運動しながら瞑想する
うちに、守衛として仕事もできるようになった。
うまく回らなかった舌もなめらかになり、みちがえるように
に健全になったようだ。
罰として移動した人としては異例のことだが、また寺のほう
に戻ってこれるようになったのは、ちょうど1年前のこと。
【 もう一生ここで暮らすから今度はまじめにやるよ~ 】と
言っていたのだが…それから10ヶ月後、インヤイは突然姿
を消した。
暮らしていた部屋の荷物もそのままで、看護師に預けてある
お金も持たずに着の身着のまま居なくなってしまった。
電話も全くつながらず、友人も首をかしげるばかり。
もちろん、薬も持っていない。タイではかかりつけの病院を
ひとつに絞るため、他の病院では治療を受けることも薬をだ
してもらうこともできない。
【 バイクタクシーの運転手でもすれば、その日暮らしはできる
だろうけど、薬がなかったら、もう野垂れ死ぬしかない 】
と、彼の友人は言う。
連絡の取りようもなく、何もできず、歯がゆい思いをしてい
たが、蒸発?して1ヶ月後にインヤイが突然寺に戻ってきた。
ろれつが回らず、何をしゃべっているのか分からない状態に
なってしまっていたそうだ。
そして、数時間したらまたどこかに行ってしまった。
どこにいたのか、どうして出て行ったのか、なんで一度戻っ
てきてまた出ていったのか、誰もわからないまま。
いまインヤイはどこにいるのだろう?
守衛の仕事ができて本当に嬉しい♪ 誇りに思う。
できることなら、亡くなったお母さんに
この姿を見せたかったそうだ。
この姿を見せたかったそうだ。
● ヌン
ヌンは盲目になってから何年たったのだろう、本人も
覚えていない。寺にやってきた時には右半身に硬直が
あり、もう目が見えなかった。
音楽が大好きなヌンは、コミュニケーションの達人で、
周りに人が集まってくる。
乱暴な扱いをする人もいて、目が見えない状態でいき
なり体をつかまれたらびっくりするだろうに、ちょっ
かいだされても一緒に笑ってしまえるのがヌン。
そんな彼の笑顔に、一緒にいる人は癒されてしまう。
AJINOMOTOの慰問
ポピュラーな曲を選んでくれているおかげで、みんなで大合唱♬
一時間以上も歌って踊って楽しませてくれた上に、
ヤムヤムのやきそばのおやつまで用意してくれ、
かゆいところに手の届く心のこもった励ましであった。
ヤムヤムのやきそばのおやつまで用意してくれ、
かゆいところに手の届く心のこもった励ましであった。
ヌンも拳をかかげて大喜び♥
(photo from Wat Phrabatnampu)
慰問にやってきたカラバオ
※ 活動歴30年を越す大御所ロックバンド
タイ国では知らないものはいない
タイ国では知らないものはいない
(video from Huub)
カラバオのコンサートを楽しんだのは言うまでもないが、
カラバオの前座を務めたバンドの演奏中に涙したヌン。
なんとも言い表せないけれど、胸がいっぱいになってしまった。
【何か】をもっているヌンなのだ。