2012年9月7日金曜日

【 滞在記24 】 【2012. 6. 1 ~  6. 3 】 




    ● ハンドメイド  てぶくろ
 

      意識障害があると、酸素吸入のチューブや尿道カテー
      テルを外してしまうことがある。
      
      おむつをとり、あたりかまわず糞だらけにしてしまう
      ことも。
      傷口をガーゼでおおってあっても、触って悪化させて
      しまう

      そんな状態の患者には、抑制帯をつけることもある。
      ちゃんとした抑制帯などはなく、細く裂いたさらし布
      で縛られることになる。

      自分の状態がわかっていないため、不快感から暴れて
      余計に布が食い込んで手足が傷ついてしまう。
      



      以前ロッブリー病院で見たことがあったグローブを参
      考に作ってみることにした。
      点滴の空きボトルに通気のために穴をあけ、編み物の
      得意なスタッフに毛糸で編んでもらった。

      これで手首が傷つくことなく、てのひらのムレムレも
      最小限にできるといいな。








    ● 売店


      寺の入口から少し歩いたところに小さな小屋がある。
      そこでは、寺でつくった工芸品がおいてある。
      手頃なおみやげがあります。
      ちょっと見過ごしがちなところにあるので、お越しの際
      はどうぞお立ち寄りくださいね!

  
            PデーンとPサイピンがお出迎え    








      ● 治験 

    
      寺で出会った日本人の方に【 患者さんのために少し
      でも力になりたいので、是非協力してもらえないか 】
      というお申し出があった。

      ご自身も、○○病が治ったという健康補助飲料を患者
      さんに寄付したいというのだ。
      
      てのひらにすっぽり入るくらいの小さなボトルには、
      鉱泉水と海水、米酢がブレンドしてあるという。
      30mlほどで1本10500円なり。



      何往復かのメールのやりとりのあと、その方たちが
      寺を訪問された。

    【 こんなにすごいものはない!アフリカでもエイズが
      治ってるんです。これを飲めば絶対治ります! 】
      と熱弁をふるわれた。


      しかし…
      患者さんのためのタイ語の資料や通訳を用意するの
      は費用がかかるといって用意していない。
      患者の様子を知ることもせず、病棟には入ろうとも
      しない。
      データをとるのは患者のためであって、自分たちの
      ためではないと言われるのだが、いいデータがとれ
      そうな患者をピックアップしてほしいといわれる。
      なにか違和感が募った。
   

      その場に連れてきていたタイ人スタッフとの会話が
      聞こえてきた。その健康補助飲料をタイで販売する
      用意が着々と進んでいるそうだ。
      タイや日本だけでなく世界中でその商品を大々的に
      扱うためにもエイズ患者のデータを望んでいるのだ。

      エイズ患者のデータをとることができれば水戸黄門
      の印籠を手にするのと同様。
      しかもタイでは寺で患者を助けて徳を積んだという
      印象も得られるとふんだらしい。


      せっかく日本から来たのだ。
      無駄足を踏みたくない。どうしても誰かに試して欲
      しいというので、今回はまずHIV陰性のスタッフに
      試してもらうことにして、患者さんには次回説明会
      をすることにした。

      自分で考え、話をすることができる10人の患者さ
      んに、もし機会があったらこの健康補助飲料を試し
      てみたいと思いますか?と、聞いてみた


      (患者さんの意見)
      ・自分たちはただでさえ何種類もの強い薬をとって
       いることで、かなり強い副作用がでることもある。
       現状を保つことでさえ大変なのに、素性の知れな
       い外国のものを試す冒険をする危険はおかしたく
       ない。

      ・もし本当に治る可能性があるのなら、危険がある
       としても試してみたい。

      ・何かあったとしても、誰も責任とらないんでしょ。
       少なくとも自分で選べるだけの判断基準がないの
       では、何ともいえない。

      (結果)
       商品についてまず情報が欲しい 1人
       試したい 1人
       試したくない 8人



      もし患者を利用しようとしているのであっても、患
      者にも同等のメリットがあればいいのかもしれない。
      少なくとも、患者側にも選ぶ材料があればいい。
      私にはわからないことが多いので、何かあったとき
      に相談にのっていただいている日本の医師に相談さ
      せていただいた。
      すると、これは明らかに【 治験 】である様子
      ので、次の点に留意するといいというアドバイスを
      いただいた。


      ● 商品の資料、説明をタイ語でわかりやすくする。
      ● ○○病が治ったというようなあやふやな説明は
        できるだけ避ける。
       (医学的に証明できていない部分に関して治癒に
        ついての説明は、日本の薬事法にのっとったよ
        うであれば好ましいと思われる。)
      ● 製品の提供に伴い、とったデータをどのように
        使用するのか提示する。
       (まずデータとはどこまでを指すのか、名前、
        年齢、身長、体重、血液検査の結果、写真の
        提示などは具体的に)
      ● 望まない時には、いつでも治験を降りることが
        できるという誓約書をかわすこと。
      ● ご存知だとは思いますが、治験は無料で行われ
        ることはありません。謝礼はどうされるのか前
        もって提示されるとよいでしょう。


      こういう形ならどうだろう。
      先方にメールで連絡させていただいたが、返信はなく、
      また次月訪タイされる予定と聞いていたが、もう二度
      と会うこともなかった。

     
      エイズホスピスとして有名なパバナプ寺には、世界各
      国から、見学者がやってくる。中には患者のデータを
      とって研究に反映させることもあるという。
      その他、健康関連商品、医薬品の治験やの広告宣伝の
      ためにやってくる人々も少なくない。



     
             マレーシアの大学の調査風景
        希望者に採血をし、詳細なデータを提供するという
           (こちらの本文とは関係ありません)


        
      ※ 後日談…
      この日本からの訪問者の方とのやりとりのあと、様々な
      ことに疑問がわいて、ざわざわした気持ちになりました。
    
      差別は決して人に危害を与えたいと思って行われるわけ
      ではありません。
      普段あえて意識されていないが、何かをきっかけとして
      その人がどういう考えを持っているか言動によってあき
      らかになります。
      
      もともと決して悪意をもっているわけではないのに差別
      につながる行為…差別する側される側を隔てるものは何
      だろう?
      とても大きな宿題が残っていて、滞在記もなかなか手に
      つかずに放置がとまらない(/ω\)
      気がつけば季節がかわっていました。

      いまは答えがなかなかでない問いを持ちつつ、あきらめ
      ず問いかけ続けるしかないのかもしれません。